顕微授精とは?ふりかけ法との違い・メリット・リスク・流れを解説
体外受精には「顕微授精」と「ふりかけ法」の2種類があります。「顕微授精」と「ふりかけ法」は受精の方法や対象となるケースが異なります。ふりかけ法で受精が成立しなかった場合でも、顕微授精を選択することで受精の可能性が高まることがあります。
この記事では、ふりかけ法との違いを比較しながら、顕微授精の具体的な流れやメリットやリスクについて詳しく解説します。
橋本駅南口から徒歩1分の長谷川レディースクリニックでは、生理不順やPMS(月経前症候群)など、女性特有の症状に関するご相談に加え、男性不妊に関する検査・治療にも対応しています。経験豊富な専門医が、一人ひとりのお悩みに寄り添いながら、適切な医療サポートを提供いたします。
また当院では、神奈川県相模原市・淵野辺駅から徒歩2分のソフィアレディスクリニックと連携し、婦人科および不妊治療においてスムーズな連携体制を構築しています。検査結果や治療方針の共有により、患者さまにとって安心かつ効率的な診療環境をご提供いたします。
顕微授精とは?精子を卵子内に直接注入する受精技術
顕微授精は、卵子が精子を取り込むプロセスを人工的に補助する高度な受精方法の一つです。形態が正常で運動能力の高い精子を1つ選び、手作業で卵子の中に直接注入します。現在、最も一般的に行われているのは「卵細胞質内精子注入法(Intracytoplasmic Sperm Injection:ICSI)」です。
ふりかけ法で受精が成立しなかった場合や、精子数が少なく自然妊娠が難しいと判断されるケースでは、顕微授精が有効とされています。
ふりかけ法と顕微授精の違いを比較
ふりかけ法と顕微授精の最大の違いは、受精のプロセスです。ふりかけ法は精子の力で自然に近い形で受精を目指すのに対し、顕微授精は人工的に受精を成立させる方法です。ふりかけ法の特徴は以下のとおりです。
- 卵子が入ったシャーレに精子をふりかける
- 精子が自力で卵子に侵入するのを待つ
- 自然に近い形での受精ができる
- 卵子への物理的な負担が少ない
- 精子や卵子に受精障害がある場合は受精率が低下する
顕微授精には以下の特徴があります。
- 胚培養士が選んだ精子をガラス管で卵子に直接注入する
- 人工的に受精を成立させる
- 精子の形態や運動性を確認し最適なものを使用できる
- 受精率が高まる可能性がある
- 高度な設備と専門的な技術が必要となる
それぞれにメリットとデメリットがあるため、医師と相談し、状況に応じて適切な方法を選択することが大切です。
顕微授精の主なメリット3つ
顕微授精のメリットは以下の3つです。
- 受精率が高い
- 精子が1つでもいれば受精が可能
- 受精障害のあるケースにも対応できる
受精率が高い
顕微授精は、胚培養士が顕微鏡で確認しながら卵子の細胞質内に精子を直接注入する方法で、精子が自力で卵子に到達する必要がありません。ふりかけ法と比べると妊娠率自体に大きな差はありませんが、受精率の面では顕微授精が高い傾向があるとされています。受精障害が原因で妊娠に至らないケースでは、顕微授精が有効な治療法とされます。
精子が1つでもいれば受精可能
ふりかけ法は卵子1個に対しておよそ10万個の精子が必要ですが、顕微授精では生きている精子が1つでもあれば受精が可能です。精液中に精子が確認できない無精子症の場合でも、精巣から直接精子を採取する手術(TESEなど)によって顕微授精を行えるケースがあります。顕微授精は、重度の男性不妊でも妊娠の可能性が高まっています。
形態・運動性に優れた精子を選べる
顕微授精では、胚培養士が顕微鏡下で精子を1つずつ観察し、形態と運動性の両方に優れた精子を厳選して使用します。優れた精子を厳選することで、受精成功率を高められる点が大きなメリットです。一方、ふりかけ法では、どの精子が卵子に到達して受精するかを選ぶことはできません。
運動性の良い精子を前処理で選別しても、形態に異常がある精子が混ざる場合があります。形態異常のある精子は受精に至らないこともあります。
顕微授精で考えられる主なリスク5つ
顕微授精の主なリスクは以下の5つです。
- 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)
- 採卵時の出血・感染症リスク
- 卵子への損傷リスク
- 先天異常のリスク増加の可能性
- 治療に伴う費用負担と通院の負担増加
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)は、顕微授精で使用する排卵誘発剤によって卵巣が過剰に反応し、腫れや腹部の膨満、痛みなどが生じる副作用の一つです。腹水の貯留やむくみ、重症化すると血栓症などの合併症を引き起こすこともあります。
主な症状は腹痛・吐き気・息切れなどで、早期に対応すれば軽症で済みますが、悪化した場合は入院治療が必要になることもあります。治療中は医師の指示を守り、体調の変化があれば速やかに報告することが大切です。
採卵時の出血・感染症リスク
顕微授精では、体外受精のために卵子を採取する「採卵」という手技を行います。腟の近くから針を刺して卵巣内の卵子を取り出すため、出血や感染のリスクを伴います。まれに大量出血や、針の通過部位からの細菌感染による炎症が起こることもあります。感染が起きた場合は、痛みや発熱などの症状が現れます。
異常を感じたらすぐに医療機関を受診することが大切です。採卵は経験豊富な医師が担当し、清潔操作や抗生物質の使用によってリスクは最小限に抑えられる可能性があります。
卵子への損傷リスク
顕微授精は、顕微鏡下で細い針を使って精子を卵子内に注入する高度な技術です。針を使う際に卵子に小さな傷がついたり、まれに卵子が割れてしまったりすることがあります。注入の過程で卵子内部の構造をわずかに損傷し、受精や胚の発育に影響することもあります。熟練した技術で行われますが、操作上のリスクを完全にゼロにはできません。
どの治療にも一定のリスクがあることを理解したうえで選択することが重要です。
先天異常のリスク増加の可能性
顕微授精で生まれた子どもにおける先天異常については、一部の研究で自然妊娠よりわずかに増える可能性が指摘されています。ただし、近年の大規模調査では、顕微授精と自然妊娠の間に大きな差は見られないと報告されており、明確なリスク上昇は確認されていません。
顕微授精を選択する多くのケースでは、もともと不妊の背景因子(精子や卵子の異常など)が存在しており、先天異常の発生に関与している可能性もあります。
治療に伴う費用負担と通院の負担増加
顕微授精は高度な医療技術を要するため、一般的な体外受精に比べて費用が高くなる傾向です。治療の過程では複数回にわたる通院や検査、薬の投与が必要になり、日常生活や仕事との両立が難しく感じられることがあります。採卵や胚移植の準備など、身体的にも大きな負担がかかる可能性もあります。
費用面や通院面を考慮し、医師としっかりと相談しながら治療方針を決めていくことが大切です。経済面・体力面の双方の負担を理解したうえで、必要に応じて周囲からのサポートを得ながら取り組みましょう。
顕微授精の基本的な流れ
顕微授精の基本的な流れを5つのステップで紹介します。
- STEP1:卵子を採卵する
- STEP2:精子を回収・選別する
- STEP3:卵子に精子を注入する
- STEP4:胚の培養を行う
- STEP5:子宮へ胚を移植する
STEP1:卵子を採取する
卵巣刺激によって複数の卵胞を育てた後、排卵前のタイミングで卵胞から卵子を含む卵胞液を取り出します。採卵は経腟超音波で卵胞を確認しながら、卵巣に針を刺して行います。多くのクリニックでは、局所麻酔や静脈麻酔が用いられます。採取された卵子は培養液に移され、顕微授精が行われるまで培養されます。
STEP2:精子を回収・選別する
およそ3日間の禁欲期間を経て、精液を採取します。洗浄と処理によって良好な運動性を持つ精子を分離し、形態と運動性に優れたものを選びます。工程では、精子から卵活性化物質を放出しやすくするために「不動化処理」と呼ばれる操作を行います。
STEP3:卵子に精子を注入する
選び抜かれた精子を、細いガラス管で吸引し、卵子の細胞膜を通して卵細胞質内へと注入します。染色体分裂に関与する「紡錘(ぼうすい)体」を傷つけないように注意が必要です。卵子の第一極体の位置を12時方向に固定し、3時方向から針を挿入して注入します。
STEP4:胚の培養を行う
受精した卵子は細胞分裂を始め、2細胞期に入ると「胚」と呼ばれるようになります。胚は通常2〜6日間にわたって培養され、培養環境には温度やpH、培養液の質などが重要です。分割が順調に進めば、胚は4〜8細胞の初期胚から、最終的には胚盤胞まで成長します。胚の状態を確認しながら、初期胚または胚盤胞のいずれかを胚移植に使用します。
STEP5:子宮へ胚を移植する
受精・培養された胚を子宮内に戻す工程が「胚移植」です。移植には、採卵と同じ周期で得られた新鮮胚を用いる場合と、初期胚または胚盤胞の段階で凍結保存した胚を別の周期に融解して使用する場合があります。多胎妊娠のリスクを避けるため、原則として移植する胚は1個に制限されます。
顕微授精とふりかけ法を組み合わせた受精アプローチ
より高い受精率を目指す、2つの代表的なアプローチを紹介します。
- スプリットICSI:ふりかけ法と顕微授精を併用する方法
- レスキューICSI:ふりかけ法で受精しなかった場合の対応策
スプリットICSI:ふりかけ法と顕微授精を併用する方法
スプリットICSIとは、ふりかけ法と顕微授精を同時に実施する受精手法です。ふりかけ法による自然受精の可能性があると判断された際に選択されます。メリットは、精液所見が不良な場合でもふりかけ法の可能性を残し、同時に顕微授精を行うことで受精卵が全く得られないリスクを軽減できる点です。
採卵した卵子をふりかけ法と顕微授精に分ける必要があるため、十分な卵子数が確保できた場合に限られます。併用により、より高い確率で受精卵を得られる可能性が高まります。
レスキューICSI:ふりかけ法で受精しなかった場合の対応策
レスキューICSIとは、ふりかけ法で受精が確認できなかった卵子に対して、同日中に顕微授精を追加で行う処置です。ふりかけ法による受精を開始してから4〜6時間後に卵子を観察し、受精の兆候が見られない場合には、速やかに顕微授精を実施します。レスキューICSIの特徴は以下のとおりです。
- 受精に至らなかった卵子に即時対応
- 顕微授精単独と同等の成功率が期待
- 精子の状態が良好でも受精しない例に対応可能
- 胚移植に進めない事態を防ぐ有効な対策
すでに受精が進行している卵子に対して顕微授精を行ってしまうと、多精子受精という異常な状態を引き起こすリスクがあるため、慎重な観察と判断が不可欠です。
顕微授精をおすすめする方
顕微授精をおすすめする方は以下のケースに該当します。
- 重度乏精子症の場合
- 精子無力症の場合
- 精子奇形症の場合
- 不動精子症の場合
- 調整後の運動精子濃度が2,000万/mL未満の場合
- 精子の正常形態率が著しく低い場合
- TESE(精巣内精子採取術)で精子を採取した場合
- 抗精子抗体が認められる場合
いずれもふりかけ法での受精が難しい、または精子の状態に問題がある場合に有効な方法とされています。体外受精のふりかけ法は、比較的受精能力が保たれているご夫婦におすすめされる方法です。
顕微授精に関するよくある質問
顕微授精について多くの方が抱く疑問の中から、頻度の高い以下の3つを解説します。
- 顕微授精は痛い?
- 顕微授精は何回まで挑戦できる?
- 生まれてくる赤ちゃんへの影響はある?
顕微授精は痛い?
顕微授精で感じる痛みの多くは、採卵時です。多くの医療機関では静脈麻酔を使用して採卵を行うため、手術中に強い痛みを感じることはほとんどないとされています。麻酔が切れた後に軽い腹痛や張りを感じることがありますが、一時的であり、痛み止めで十分に対応できる場合が多いです。
胚移植は麻酔を使わずに行われますが、内診程度の軽い不快感を伴うのみで、強い痛みはありません。人によっては生理痛のような鈍い痛みが半日〜1日ほど続くこともありますが、日常生活に支障をきたすほどではないケースがほとんどです。痛みに不安がある場合は、あらかじめ医師に相談し、麻酔や鎮痛薬の使用を検討しましょう。
顕微授精は何回まで挑戦できる?
顕微授精に医学的な回数制限はありませんが、保険適用の範囲に制限があります。保険診療では、通算6回まで(40歳以上は3回まで)が上限と定められています。回数の中で妊娠・出産を目指すのが一般的です。自費診療は回数に制限はありませんが、費用や身体的・精神的負担を考慮して検討しましょう。
治療回数を重ねるごとに妊娠率が上昇する傾向ですが、3〜4回行っても妊娠に至らない場合は、治療方針の見直しを検討する必要があります。年齢や卵巣機能、過去の治療経過を踏まえて、医師とよく相談しながら適切な治療計画を立てることが大切です。
生まれてくる赤ちゃんへの影響はある?
顕微授精によって生まれた子どもは、自然妊娠の場合と比べて先天異常のリスクがわずかに高いと報告されています。ただし、差は小さく、多くの場合で大きな心配は不要とされます。不妊の原因や両親の年齢などが影響していると考えられています。世界中で数百万人の赤ちゃんが顕微授精によって誕生しており、多くが健康に成長する例が多いとされています。
不安がある場合は、妊娠中の定期健診や超音波検査で十分なフォローアップが受けられます。
まとめ
ふりかけ法と顕微授精は、いずれも体外受精に分類される方法ですが、受精の仕組みや適応される状況には大きな違いがあります。精子の数が少ない場合や運動性に問題があるケースでは、顕微授精が受精率を高める選択肢になります。一方で、顕微授精には卵子への物理的なダメージや治療費の高さ、身体的な負担など、慎重に理解しておくべき点もあります。
顕微授精を検討する際には、リスクとメリットを正しく把握したうえで、医師と相談し、夫婦が納得のいく形で方針を決めることが大切です。
参考文献
- Anna‑Karina Aaris Henningsen, Signe Opdahl, Ulla‑Britt Wennerholm, Aila Tiitinen, Steen Rasmussen, Liv Bente Romundstad, Christina Bergh, Mika Gissler, Julie Lyng Forman, Anja Pinborg. Risk of congenital malformations in live‑born singletons conceived after intracytoplasmic sperm injection: a Nordic study from the CoNARTaS group. Fertil Steril, 2023, 120, 5, p.1033‑1041
- Manish Banker, Parul Arora, Jwal Banker, Hetal Benani, Sandeep Shah, Parmeswaran Grace Luther Lalitkumar.Prevalence of structural birth defects in IVF-ICSI pregnancies resulting from autologous and donor oocytes in Indian sub-continent: Results from 2444 births.Acta Obstet Gynecol Scand,2019,98,6,p.715-721
